読書感想:午前零時のサンドリヨン

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テレビドラマ「霊媒探偵城塚翡翠」を見て見事にハマってしまい、原作を読もうと思ったのがきっかけ。そのまま原作を買っても良かったのですが、Kindle Unlimitedの方で同じ著者の作品があったので、まずはこちらからにしました。

あらすじ

ごく普通の男子高校生、須川は同じクラスの酉乃初(とりのはつ)に惹かれてしまう。その彼女は普段はあまり愛想もない憂鬱げな表情を浮かべ、クラスでもやや孤立気味。しかし、放課後はレストラン・バー「サンドリヨン」で華麗なマジックを晴れやかに披露する。そんな二面性を持つ彼女と出会い、徐々に接点を広げていく。

ある日、図書館で棚の本が丸ごとひっくり返っている中で1冊だけ背表紙が見えている不思議な現象について話をしたところ、酉乃はあっさりと謎を解いてしまう。しかし、それは一連の事件のきっかけに過ぎなかった…。

小っ恥ずかしい青春を描いたボーイ・ミーツ・ガール

先に断っておくと、ミステリですが人が死んだりはしないのでそこはご安心を。もっとも、作中で自殺した生徒の幽霊騒動が出てきますけど。

長編作品ではありますが、どちらかというと4篇の連作短編と考えた方がよいのかも。それぞれの章は一通り完結していて、全体で1つのストーリーになっているという1話完結のドラマのような形。最初のうちは軽い謎から始まりますが、クライマックスでは全てが繋がっていたことがわかります。

ミステリについて

個人的な話ですが、ミステリは久しぶり。昔は鉄道好きの流れで西村京太郎氏のトラベルミステリーとか、ちょっとだけ内田康夫氏とか、綾辻行人氏の館シリーズとか読んだことも。トリックを解くことはあまり考えてなくて、話を読む方に集中してしまい、伏線を素通りしてしまいがち。

そんな状態でドラマ「霊媒探偵 城塚翡翠」を見て、少しミステリ熱が再燃。そのリハビリとしては軽いミステリで楽しめました。ちょっと重い感情が出てくる部分もあるのでそういうのが苦手な人にはお勧めしませんけど。

マジックについて

マジックが好きかと言われると別に積極的に見ようとは思わないけど…という程度でしょうか。でも、NHKで何回かやっているゲスト出演者がマジシャンに無茶振りする番組は結構好きで見ています。

マジックといえば、この時期(これを書いているのは2022年11月30日)宴会芸ですよね。出向先の宴会では皆でマジックをするのがお約束でした。あれはまあタネが当然あるし、マジシャンがやるプロのマジックも当然タネがあります。

小説でタネといえば伏線でしょうか。そういう意味ではマジックと小説、特にミステリは相性がよいのかもしれません。本作や「城塚翡翠」でも手品(マジック)と魔術・魔法(マジック)と詐欺師を含む霊媒や占いとの関連性に触れてます。ある意味人間の根底の奥深くにまで迫るという意味で彼らと作家は同類なのかもしれません。タネを使って人を騙しますしね。

ちなみにフーディーニの話は昔ヤンジャンの偉人を取り上げたマンガ「栄光なき天才たち」で読んだこともあります。あの作品では何人かの偉人が登場しますが、一番印象に残ったのはフーディーニでした。

作中ではマジックへの見方についても触れられています。ヒロインの酉乃初のセリフからは「不思議は不思議のままにしておくべき」と語られます。それに対して、サンドリヨンのマスターのセリフがこれ。

マジックの楽しみ方は、人それぞれです。トリックを見破るのを目的にマジックを観る人がいたっていいじゃありませんか。不思議は不思議のままという初の信条は、マジシャンの立場からの一方的な都合です。そんな理由で、お客さんに味方を強要するのは間違っていると思うのですよ。

「胸中カード・スタッブ」より

自分はマジシャンじゃないですが、あらゆる仕事や人の在り方に通じますよね。えてして、こう解釈してほしい、こう受け取ってほしいと思ってしまいますけど。

しかしながら、ある線を越えるとどうでもよくなってしまう。ちょっとセンシティブな部分なので引用するのを迷いますが、八反丸の以下のセリフは印象に残っています。

けど、自殺ってそういうことだと思う。死んだら、誰にも言い返すことなんてできないもの。もう全部、生きている人間にすべてを丸投げして、あとはなにもしないで閉じこもっているのと同じよ。わたしのことなんてどうでもいい。なんとでも思ってくれてけっこう。あなたたちの自由ですって。

「あなたのためのワイルド・カード」より

これはあくまで八反丸さんの考えであって、こんなこと考えて自殺する人はおそらく少ないかと思います。当人は逆に自分という存在を知らしめたいと思うケースもあるでしょうし、なにも残さず消えてしまいたいという方もおられるでしょう。

ただ、おそらくこの作品を通じて無駄と思っても想いは伝えないといけない、そうしなければ伝わるわけがない、というテーマがあるのかとは感じました。

最後の方で須川くんが心のうちで語る「未完成の世界に生まれた未完成の人間」というフレーズが心に残りました。こういう「この世界はバグだらけ」って考え方はあちこちでそれなりに見かけますし、実際、そう思ってしまいますけど。

でも、やはり「誰がどう思ったって俺は自分の道をいく」なんて漢らしい考え方はできませんね。須川くんの3倍くらい生きてますが、いまだに未完成の一人です。

著者について

最近は読書離れが進み、そもそもラノベしか読んでないので著者の相沢沙呼氏のことは存じ上げませんでした。2009年に本作で第19回鮎川哲也賞を受賞してデビューしたとのこと。経歴の中に「フリーのプログラマー」とあるので、パソコンについての描写がやけに具体的だったのはそのせいかと納得です。16進のカラーコードって普通は6桁の方がメインで3桁のは自分はあまり使いませんでしたが、Web系をやってたのでしょうか。

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